第48回定例講演会レポート

(文責:迅速検査研究会 事務局)

従来、食品安全を担保するための微生物検査は、最終製品の抜き取り検査が中心に据えられていました。しかし、安全性確保の手法としてHACCP(工程管理)の考え方が普及するにつれ、微生物検査のニーズは、最終製品が中心の考え方から、原材料や中間製品の検査、HACCP(工程管理)の検証に関する検査、環境の清浄度確認のための検査など、多岐にわたるようになってきました。
特に近年は、HACCPのハザード分析の結果で「環境からの微生物汚染」が重大な食品リスクにつながる可能性がある場合(例えば環境からのリステリア・モノサイトゲネスやサルモネラ属菌が食品に交差汚染を起こす可能性がある場合など)では、HACCPの前提条件プログラムの一部として「環境モニタリング」に取り組む施設が欧米を中心に増えています。
そこで第48回定例講演会では、HACCPや環境検査に寄与する様々な技術やプリケーションに関する講演を企画いたしました。

「食品微生物分野におけるPCR技術の活用」

迅速検査研究会 川崎晋会長(農研機構 食品研究部門)
HACCP制度化の浸透に伴い、HACCP(工程管理)の検証に関する検査や、環境の清浄度確認のための検査のニーズは、ますます高まると考えられます。
そうした背景から、今後、微生物検査の技術の一つの方向性として、多検体を簡便・迅速に処理できる遺伝子学的な手法(PCRなど)の有効活用が注目されています。
検出技術の進展は、微生物の制御技術の開発や、微生物の挙動に関する予測モデルの開発などの分野の進展にも寄与します。それは、ひいてはより付加価値の高い商品開発などにもつながると期待されます。
川崎会長には、ハイスループットを可能にするPCR技術が、食品微生物の検出・制御・予測の分野にどのような可能性をもたらすか、自身の研究成果なども交えて、未来を指向した迅速検査の可能性を語っていただきました。

HACCP制度化における自主的な微生物検査・環境検査

一般財団法人広島県環境保健協会 環境生活センター 和田貴臣先生
HACCP制度化が施行されていますが、HACCPを形骸化させないためには、製品の規格や製造工程の手順、衛生管理に関する作業の手順などが、科学的根拠に基づいていることの確認(検証)が求められます。
近年、特に新型コロナ以降になってからは、新しい販路の構築やテイクアウト・宅配などの新業態への挑戦、食品ロス削減、SDGs対応など、様々な観点から賞味期限・消費期限の延長を検討するケースが増えています。
その場合、従前の製品規格や工程管理、衛生管理の仕組みを継続して支障が生じないか、科学的根拠に基づいて検証することが必須となります。
和田先生には、広島県内の焼き菓子工場において、微生物検査の結果を基に、製品規格や製造工程の見直しを行った事例を紹介していただきました。現場の視点で「経験や勘も大事にしながら、科学的・理論的に現場を見直す」というアプローチを披露していただきました。

受託洗浄サービスのPDCAサイクルマネジメント

SOCSマネジメントシステムズ株式会社 田中晃先生
HACCPでは日々の、あるいは定期的な洗浄・消毒が、一般衛生管理項目であることは言うまでもありません。一方で、日常の洗浄・殺菌作業の負担は大きく、また専門業者でなければ洗浄が困難な箇所も施設内には存在します。近年、業務効率化や人手不足対応、人件費削減などの背景から「洗浄・消毒」を外部の専門家に委託する食品企業も増えています。
SOCSマネジメントシステムズは、衛生管理の受託サービスを提供しています。特徴的な取り組みの一つとして、ISO 22000認証を取得して「清浄度管理の仕組み」にマネジメントシステムの考え方を適用している点が挙げられます。同社の衛生管理業務では、作業の結果(効果)を「数値化」「見える化」するツールとしてATPふき取り検査を積極的に活用しており、最近は微生物を指標とした「環境モニタリング」にも取り組んでいます。
田中先生には、ATPふき取り検査などのツールを「洗浄作業の品質の確保」に効果的に活用している実例や、その根底にある理念や経営哲学を語っていただきました。

自主的な微生物検査・環境検査の信頼性確保のために

一般財団法人日本食品分析センター 諸藤圭先生

微生物や汚染指標などの自主検査を実施する組織において、「自社の検査の正しさ」を証明することは非常に重要な課題です。そのために有効な、最も広く認知されている選択肢としては、ISO17015のような試験所認定の取得や、外部精度管理への参加などが挙げられます。
しかし、検査を実施するすべての組織に試験所認定が必須とされるわけではなく、簡便・迅速検査を実施・活用する現場にまで「完璧な検査体制の構築・運用・維持管理」が求められるわけではありません。
微生物検査の場合、ISO 17015で適用される考え方として、「サンプルが適切である」「試験方法が妥当である」「設備・機器が適切である」「試薬・培地が適切である」「技能がある」「仕組み(組織)がある」などの要件があります。これらの要件は、簡便・迅速法による自主検査では、どのような考え方をすれば当てはめることができるでしょうか?
諸藤先生には、「自主的な微生物検査・環境検査の信頼性確保に取り組みたい!」と考えている検査担当者が漸進的なアプローチで「検査室の信頼性確保」に取り組めるよう、「大事なことからコツコツと積み上げていけるような考え方」「(100点満点でなくても)メリハリをつけて、まずは合格点がとれるような仕組み作り」の考え方などを提言していただきました。